2010年12月21日

大学受験生に贈る 本当の学力のすすめ

2010年12月21日 毎日.jp

「基本は、ものの見方」 元高校教師・水谷修さん

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水谷修さん=横浜市港北区で10年3月木村健二撮影 日本の子供たちに必要な「学力」とは? 3回目は元高校教師で、さまざまな悩みを抱える子供たちの相談に乗り、「夜回り先生」として知られる水谷修さんに聞いた。

−−生きていくうえで、若者に必要な「学力」とは何でしょうか。

 ものの見方、考え方。それが、若い時に学ばなければならない学力の基本で、一番大事なことだと考えています。ものの見方は、ひいては人格になるんです。人は生涯、人格形成をしていかなければならない。それを「勉強」とするなら、そのために一番大事な基点をつくるのは10代の時期です。でも、教科書を暗記することに意味はない。知識は、文字が読めて言葉の意味を知っていれば、いつでも、いくらでも積み重ねることができる。かつて我々は新聞や本、または先生、周りの大人から知識を得てきた。ましてや今はインターネット時代ですから。

 でも、ものの見方は、子供のころからいろいろなものに疑問を持って、学ばなければ持てない。知識内容でいくら優秀でも、ものの見方を持っていなければ、単にうのみにするか否定するしかない。そこから新しいものが生み出せないんですね。僕は大学で哲学を学びました。哲学はものの見方をくれた。単に言われたことを信じるのではなく、疑いの心を持ちながら、ものを見る。必要なのはものの見方ですよ。日本の教育が全くしていないことで、今の日本の子供たちに、ものすごく足りないと思います。

−−水谷さん自身は、大学で身につけたのですか。

 もともと疑い深くて、人の言ったことはまず否定する生意気な生徒だった。母が在日コリアンの識字教室をやっていて、僕も中学から先生をやっていたんですよ。彼らと触れ合ううちに、世の中の矛盾にとにかく腹がたってね。中学から学生運動ですよ。偉そうなものは全て疑いの目で見ていました。偉そうな人が「良い政治」をやっている。それならなぜ、在日の人たちは貧しい生活をしているんだと思っていましたから。

−−ものの見方を身につけるには。

 何もせずに自分を見つめる時間をつくることです。今は情報が多すぎる。特にインターネットはどんどん変わっていく情報にさらされるでしょう。その中に巻き込まれて、自分を見失ってしまう。情報から離れて、例えば公園でぼーっと過ごしてみる。死とは何か、愛とは何か考えてみるのもいい。それが本当の「ゆとり」で、その人のものの見方をつくっていく。

 教員時代、僕はよく「1週間に1日、寝る前の1時間でいいから、ベッドに横になって、『自分は死んだ』と考えろ」という宿題を出していましたよ。顔に布をかけ、手を胸の上で組んで、息を止めてみる。自分が死んだ後も無限に続く時を考えると、自分がいかに小さいかわかる。でも自分は生きている。それなら今をどう生きるか。いじめがあった時には「やったやつも、やらんやつもいるだろう。自分なりに1時間考えて、1時間で書け」と。後は一言もしゃべらずに待ちました。子供たちもつらいですよ。言葉には言葉で返せばいいし、怒られたら、謝るか、怒り返せばいい。何も言われないのは一番厳しい。だから、考える。それが学ぶことの基本です。

−−若者向けに本を紹介してください。

 今、子供たちに読んでほしい本はやはり「夜回り先生」(水谷修著、小学館)だね。たまには自分の本を紹介する人がいてもいいだろうから。この本を読んで泣かない子はいないよ。そして気付く。本の冒頭は詩で始まる。「おれ、窃盗やってた」「いいんだよ」「わたし、援助交際やってた」「いいんだよ」「死にたい。でも、それだけはだめだよ」。この「いいんだよ」を子供たちは待っていた。いつも「だめだ、だめだ」と言われているから。僕は7年間で約65万人の子供たちからメールで相談を受けている。必ず言うのは「過去は聞かない。聞いたって変えられない。今をどう生きるかなら、手伝うよ」と。【聞き手・岡礼子】

 ◇略歴
 1956年横浜市生まれ。上智大学文学部哲学科卒。83年に横浜市立高教諭。定時制高を中心に若者の非行や薬物汚染問題に取り組み、「夜回り先生」として知られる。2004年9月に退職し水谷青少年問題研究所を主宰。著書に「夜回り先生 こころの授業」(日本評論社)など。

posted by どんぐり教育研究会 at 00:00 | TrackBack(0) | 大学受験
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